金先業協会アンケート結果⑤

平成28年8月31日に公表された一般社団法人金融先物取引業協会(金先業協会)と東京外国為替市場委員会が実施したアンケート実態調査の集計結果の検証、第5回目です。

前回は、「顧客約定とカバー取引のタイミング」の回答オプション、『前』『後』『裁量』それぞれの意味について書きました。

では、日本の業者の採用状況はどうなっているのでしょうか?

アンケートの集計結果を取引順位グループ毎に区切って表にまとめてみました。下記をご覧ください。

顧客約定とカバー取引の

タイミング

取引額順位

119

取引額順位

2038

取引額順位

3956

『前』

カバー取引が先に成立した時に限り顧客との約定を行う場合

4

4

12

『後』

顧客取引が成立した後にカバー取引を行う場合

15

12

6

『裁量』

カバー取引を行うタイミングを顧客との取引成立の前後どちらでも行うことができる場合

6

4

3

 

ここから何が分かるでしょうか?

取引額順位が上がれば上がるほど、カバー取引のタイミングが『後』の場合が多い、という一つの結論に達することができます。

逆にカバー取引を顧客約定『前』に実施している業者は、取引額順位が低いこともこの表から分かるかと思います。

これらの点からも、日本においてはA Book業者が少なく、B Book業者が取引額の大半を占めていることが分かります。そもそも固定スプレッドを提供するためには、カバー先の約定を待つことなんてできないわけですから、FX業者の殆どが固定スプレッドを提供している日本においては、当然といえば当然な結果なのかもしれません。

 

金先業協会アンケート結果④

平成28年8月31日に公表された一般社団法人金融先物取引業協会(金先業協会)と東京外国為替市場委員会が実施したアンケート実態調査の集計結果の検証、第4回目です。

第一回目に、本アンケートでFX業者のビジネスモデルを以下の4つの要素に分け、検証していると書きました。

  1. ホワイトラベル
  2. 価格の生成に利用するカバー先取引先数
  3. マリー
  4. 顧客約定とカバー取引のタイミング

ここまでで1~3の要素について書いてきましたが、今回は4つ目の要素「顧客約定とカバー取引のタイミング」について考えてみたいと思います。

そもそも「顧客約定とカバー取引のタイミング」とはどういう意味なのでしょうか?アンケートでは、以下の3つの選択肢から選ぶようになっています。

  • 『前』
    • カバー取引が先に成立した時に限り顧客との約定を行う場合
  • 『後』
    • 顧客取引が成立した後にカバー取引を行う場合
  • 『裁量』
    • カバー取引を行うタイミングを顧客との取引成立の前後どちらでも行うことができる場合

 

これら3つの選択肢にはどのような意味があるのでしょうか?例えで考えてみましょう。

 

『前』の場合:

  1. 顧客からUSDJPY買い$100万の成行注文を受けたとすると、
  2. 業者は先ずカバー先に同額の注文を出し、約定を確認する
  3. その後、業者はカバー先との約定内容を顧客に伝えることにより、取引が成立する

特徴:

  • 顧客との取引とカバー先との取引の間に時間さが発生するので、スリッページ(顧客が想定していた約定値段と実際の約定値段のギャップ)が発生しやすい
  • 約定がカバー先が提示する値段に左右されるため、顧客に提示されるスプレッドが「変動」である場合が多い
  • 業者がポジションを持たないため、利益相反が発生しないA Book業者である場合が多い

 

『後』の場合:

  1. 顧客からUSDJPY買い$100万の成行注文を受けたとすると、
  2. 業者はまず顧客との取引を成立させ(その旨通知し)、
  3. その後、カバー先との取引を実施してポジションを解消させる

特徴:

  • カバー先との取引成立を待たず(もしくはそもそもカバー取引をせず)に顧客との取引を成立させるため、スリッページ(顧客が想定していた約定値段と実際の約定値段のギャップ)が発生しにくい
  • 約定がカバー先が提示する値段に左右されないため、顧客に提示されるスプレッドが「固定」である場合が多い

 

なお『裁量』とは、カバー取引を行うタイミングを顧客との取引成立の前後どちらでも行うことができる場合を示している、とのことです。

 

次回、「顧客約定とカバー取引のタイミング」という視点から、日本におけるビジネスモデルの分布状況について検証します。

 

 

金先業協会アンケート結果③

平成28年8月31日に公表された一般社団法人金融先物取引業協会(金先業協会)と東京外国為替市場委員会が実施したアンケート実態調査の集計結果の検証、第3回目です。

前回、アンケート結果の一つの結論として、取引高上位業者ほど、

  • 内製システムもしくはASPを利用しており
  • 且つマリーしている

つまりはB Book業者であると書きました。では、どれくらいの規模でマリーしているのでしょうか?

この点を考えるにあたって、そもそも日本におけるFXの取引高はどれくらいあるのでしょうか?

出典:金融先物取引業協会「店頭外国為替証拠金取引の実態調査について」

御覧の通り、2012年4月に比べると2016年4月の取引高は3倍以上になっています。グラフにすると、取引高の伸びは明らかです。(※上の表は1か月分の値ですが、下のグラフは四半期の値です)

出典:日銀レビュー2016年6月

では、この取引高の内、どれだけ割合がマリーされているのでしょうか?アンケート結果のレポートにはFX取引額に対するカバー取引額の割合も記載されていました。

御覧の通り、上位3位までのカバー取引額割合が突出して低く(2016年4月:16.1%)なっています。つまり、限りなくB Bookに近いビジネスモデルだということです。逆に41位以下は90.1%ということで、取引高が少ない業者はA Bookに近いビジネスモデルになっています。

実際、日本における取引高上位3社というのは世界の上位3社でもあります。その上位3社がB Book業者だという事実は、グローバルでは結構ショッキングなニュースでもあります。なぜなら、近年において日本以外の国においてB Book業者の数は確実に減っているからです。なぜなら、先日も書きましたが、多くのB Book業者が、以下の理由のためビジネスモデルをB BookからA Bookに変更しているからです。

  • マーケットリスクを抑えるため(運営コストの抑制)
  • 顧客との利益相反関係を避けるため(投資家保護の向上)

 

この辺の日本における状況も今後、グローバル外為行動規範の導入によって変わってくるかもしれません。

次回は、アンケートで明らかになったFX業者の4つ目のビジネスモデル要素について検証したいと思います。

 

金先業協会アンケート結果②

前回に引き続き、平成28年8月31日に公表された一般社団法人金融先物取引業協会(金先業協会)と東京外国為替市場委員会が実施したアンケート実態調査の集計結果を検証したいと思います。

アンケート結果を3つのビジネスモデル要素で分けると、以下のようになりました。

興味深い点として、アンケート結果では調査対象会社における2016年4月度の取引高を多い順に順位付けした後、3つのグループに分けてその結果を公表しています。

  • 第一グループ(第1位~17位)
  • 第二グループ(第18位~34位)
  • 第三グループ(第35位~51位)

 

それでは、それぞれのビジネスモデル要素における順位グループ別の採用数の分布はどうなっていたでしょうか?

取引システム

  • 第一グループ
    • 内製システム/ASP:76.0%
    • ホワイトラベル:24.0%
  • 第二グループ
    • 内製システム/ASP:61.9%
    • ホワイトラベル:38.1%
  • 第三グループ
    • 内製システム/ASP:42.1%
    • ホワイトラベル:57.9%

【コメント】取引高が多いFX業者ほど、取引システムの内製化もしくはASPの利用が目立つ。逆に取引高が少ない業者はホワイトラベルのシステムを利用している割合が高い。

カバー取引先数

  • 第一グループ
    • 単数:28.0%
    • 複数:72.0%
  • 第二グループ
    • 単数:57.1%
    • 複数:42.9%
  • 第三グループ
    • 単数:52.6%
    • 複数:47.4%

【コメント】第二と第三グループでは、単数が複数を少し上回るくらいで、これといって大きな分布パターンは無いものの、第一グループでは複数の採用数が突出している。

マリー

  • 第一グループ
    • あり:64.0%
    • なし:36.0%
  • 第二グループ
    • あり:38.1%
    • なし:61.9%
  • 第三グループ
    • あり:26.3%
    • なし:73.7%

【コメント】取引高が多いFX業者ほどマリーをしていて、逆に取引高が少ない業者はマリーをしていない割合が高い。

 

ここまでアンケート結果を見てきましたが、一つの結論を見出すことができたかと思います。それは、取引高上位業者ほど、

  • 内製システムもしくはASPを利用しており
  • 且つマリーしている

という点です。つまりはB Book業者なわけです。

次回、この点についてもう少し考えてみたいと思います。

金先業協会アンケート結果①

FX業界の自主規制団体である一般社団法人金融先物取引業協会(金先業協会)は、東京外国為替市場委員会との協力して、毎年FX業者を対象としたアンケート実態調査を実施し、集計結果を公表しています。

結構興味深いのが、毎年同じ設問でもアンケート結果がちょっとずつ変わっているんです。なので、回答している各業者の担当者さんたちも質問の意味を100%把握せずに答えているんじゃないかと邪推してしまうのですが、あくまでアンケートですから、この辺は許容範囲なんでしょうね。

 

では、現時点で最新版である平成28年8月31日に公表された集計結果を検証してみましょう。対象会社数は51社、回答総数は65(複数のビジネスモデルを有する業者があるため)でした。

まず、アンケートの主要目的ですが、FX業者のビジネスモデルを把握することと思われます。本アンケートでは、各業者のビジネスモデルを以下の4つの要素に分け、合計24の形態に分類しています。

  1. ホワイトラベル
  2. 価格の生成に利用するカバー先取引先数
  3. マリー
  4. 顧客約定とカバー取引のタイミング

上記4番目の要素(顧客約定とカバー取引のタイミング)は、ちょっと説明がややこしくなるので、本稿では1~3について結果を見てみましょう。

先日から拝借している日銀レビュー2016年6月の図を使って表すと、下記のようになります。

  1. ホワイトラベル
    • 採用している「取引システム」の種類について、ホワイトラベルに該当するかしないか、という設問で尋ねています
    • 内製(つまり自社で開発している)システム、およびASP(Application Service Provider)を利用した場合は、「該当しない」に入るようです
  2. カバー先取引先数(単数、複数)
    • ここでは、価格の生成に際して利用するカバーレートの発信元であるカバー先取引数を訪ねています。実際にカバー取引を行うカバー取引先ではありません
    • 特定のカバー取引先1社のレートを基に取引価格を生成する場合を「単数」、価格制性の都度複数のカバー先レートから選択あるいは同棲した値を用いる際は「複数」という回答になります
  3. マリー取引の有無(あり、なし)
    • 顧客との取引全量に対して原則すべてカバー取引を行っている場合は「なし」、他の顧客との取引を利用してポジション(マーケットリスク)を相殺する場合は「あり」という回答になります

結果はどうだったでしょうか?下記表をご覧ください。

これを見ると、6割以上の業者がホワイトラベルではない「内製システム/ASP」システムを利用していることが分かります。私がこの業界に入った10年ほど前は、殆どの業者がホワイトラベルのシステムを採用していたことを考えると、だいぶ状況が変わりました。

ホワイトラベルの場合、既定の取引高基準を超えている限り月次システム利用料が掛からない場合が多いため、業者のビジネス立ち上げ時には人気がありました。ただ、収益元がスプレッド収益等のプロフィットシェアリングに限られるということもあり、現在生き残っている業者は収益源の多角化(ディーリング収益)による増収を目指し、自社でシステムを内製するか、システムの柔軟性がより高いASPに移行しているケースが殆どです。

なお、ホワイトラベルというビジネスモデルを採用した場合、基本的には全ての顧客注文をホワイトラベル提供元にダイレクトに投げますので、自社内で「マリー取引をする」という概念は無いはずです。ホワイトラベル提供元、つまりカバー先内でマリーしていることも考えられますが、今回のアンケートの趣旨とは異なりますので、上の表で赤字で示した3社(サービス)は、ちょっと勘違いしている可能性が高いです。

次回、アンケート結果をさらに掘り下げます。

取引システムの種類

さて、みなさんは外国為替証拠金取引(略:FX)業者が採用している取引システムについて、どれくらいご存知でしょうか?

私の理解では、FX業者が採用している取引システムには大きく分けて3種類存在します。

  1. 内製(自社)システム
  2. ASP(Application Services Provider)提供システム
  3. ホワイトラベルシステム

一般的に言って、コスト的にもこの並び順(1が一番高くて、3が一番安価)です。なので、10数年前のFX黎明期には、殆どの業者が運営コストを抑えるために3のホワイトラベルシステム(提供元が外資系の場合が多い)を採用していましたが、ここ数年になり1や2のシステムを採用する業者も増えてきました。

 

では、それぞれのシステムについて簡単に調べてみましょう。

  1. 内製(自社)システム
    • 自社内で開発、運用している取引システムを指す。その際、外部の開発会社を利用した場合であっても、業者が主体性をもって開発し、取引システムのライセンスを保持する場合は内製システムとする
    • 開発コスト、運用コスト共に一番高価な取引システムであるが、自社内で全ての完結できるため、柔軟かつ機動性の高いシステム開発が可能。大手FX業者が採用しているケースが多い
  2. ASP(Application Services Provider)提供システム
    • 複数のFX業者を顧客として持つASPの取引システム。有名なところでは、シンプレクス社IIJ社がある。大抵の場合、FX業者はASPに対してシステム導入時の初期費用に加え、月次のシステム(ライセンス)使用料を支払う。システム使用料の計算方法は会社によって異なるが、取引高に連動することが多い
    • 一つの基幹システムを複数のFX会社に使わせることによって、内製システムに比べ(主に初期開発)コストを抑えることができる
    • 多少のカスタマイズは可能なものの、1社の一存でシステムを大幅に変更することができないので、内製システムに比べるとシステムの柔軟性に欠ける。また、ASPはIT(システム)会社なので、案件毎(カスタマイズ、カバー先の追加、など)に追加開発費用が発生し、状況によっては運用コストが割高になる可能性がある
  3. ホワイトラベルシステム
    • 複数のFX業者を顧客として持つホワイトラベルシステム提供会社の取引システム。ホワイトラベルシステム提供会社自身が金融機関なので、取引システムだけでなく、取引の約定や清算までを網羅するワンストップサービスを提供する形態である。外資系の提供会社が多く、サクソバンク(デンマーク)やカリネックス(米国)が有名
    • FX業者からホワイトラベルシステム提供会社への支払いは「システム使用料」ではなく、金融サービス利用料として、末端の顧客に起因するスプレッド収益やスワップポイント収益を2社間でシェアする形態が多い。見込まれる取引量によっては、初期費用が発生しないこともある
    • システムの柔軟性は低く、画面上の表面的なデザイン以外はカスタマイズも殆どできない

 

グローバル外為行動規範という側面から考えると、「電子取引プラットフォーム」も適用対象者に入っていますので、今後ASPやホワイトラベルシステム提供会社がどのような対応を取ってくるのか、遵守を表明するのか興味深く見守ってゆきたいと思います。

ちなみにですが、ホワイトラベルサービスを提供しているサクソバンクですが、こちらは現時点ですでにコードへの遵守表明を出しているようです。詳細はこちら(英語サイト)からどうぞ。

 

マリー取引について

さて、先日、外国為替証拠金取引(略:FX)サービスを提供しているFX会社の全てがマリー取引をしているわけではない、と書きました。

出典:日銀レビュー2016年6月(黄色部分は筆者が追加)

 

FX業界では、このマリーしているかどうかのビジネスモデルについて、(特に英語圏では)以下のような呼び方をしています。

  • A Book業者:顧客注文をマリーしない
  • B Book業者:顧客注文をマリーする
  • ハイブリッド業者:一部の顧客注文をマリーする

ここでいうA Book業者は、Agency(取次ぎ)モデルとも呼ばれており、基本的に自社ではポジションを取りません。顧客から受けた注文をマリー(相殺)せずに、そのままカバー取引先の金融機関に投げます。もちろん、通貨ペアによってはカバー先が小さい単位を受けない時もありますので、そのような時は一時的にカバー取引先が受け入れる最低単位までは自社でポジションをプールする必要があるかもしれません。いずれにせよ、長期に亘って大きなポジションを持つことはありませんし、自社内でディーリング行為をするわけではないので、この手の業者のマーケットリスクは限りなくゼロに近くなります。

では、A Book業者の収益はどこから発生するのでしょうか?基本的には手数料です。外付け手数料の場合もあれば、スプレッドに包含されていて投資家には直接的には見えない場合もあります。

いわゆるDMA(Direct Market Access)、ECN(Electronic Communication Network)、NDD(Non-Dealing Desk)を採用している業者がA Book業者と言えます。ですので、もし貴方が使っている業者がDMAをうたいながら「手数料ゼロ!」などと言っていたら、確実にプライス(スプレッド)に手を加えていると考えてください。業者は何かしらの方法で収益を上げないといけないのですから、カバー先にダイレクトに注文をつなぎながら、手数料を取らないなんて有り得ないわけです。もしくは、カバー先からのキックバックという形で収益を上げているのかもしれませんが、その場合はカバー先から提示されているスプレッド自体にコストが上乗せされているわけです。下手な広告文句に騙されないようにしましょう。

ちなみに、他社や親会社等の取引システムを採用し、カバー先として利用するホワイトラベルモデルも基本的にはA Book業者と言えます。

 

ではB Book業者のビジネスモデルはどうなっているのでしょうか?B Book業者は、顧客の売り注文と買い注文を先ず自社内で約定させます。つまり、顧客が売りの注文を出したら、基本的に同額の買いのポジションを自社内で立てるわけです。そして、何かしらのアルゴリズムを使ってタイミングよく、自社内で積みあがってゆく売りと買いのポジションをマリー(相殺)させてゆくことにより利益を上げるわけです。

B Book業者の特徴としては、カバー先のプライスに左右されずに安定して固定スプレッドを提供できることです。また、顧客の注文を約定して、そのまま自社のポジションにすることから、顧客とは利益相反関係にあります。ですので、顧客が儲かれば業者が損し、顧客が損すれば業者が儲かる仕組みなわけです。一般的に大多数の投資家はFX取引で損していると言われています。実際、統計によると2015年の顧客損益はマイナス2,245億円だったそうです。ということは、全てがB Book業者で発生したロスではないとしても、結構な金額がB Book業者の収益として計上されたことが分かります。そのため、B Book業者はスプレッド収益を度外視したビジネスモデル、固定&狭いスプレッドでもビジネスが成り立っているのです。

 

A Book業者の特徴
  • 外付け手数料
  • 変動スプレッド
  • 比較的早い速度でプライス/スプレッドが変動
B Book業者の特徴
  • 外付け手数料なし
  • 固定スプレッド
  • 顧客と利益相反関係

 

 

実は日本には世界各国に比べてB Book業者が非常に多い国です。日本の取引高トップ10に入る業者の殆どはB Book業者、もしくはB BookとA Bookのビジネスモデルを混在させたハイブリッド業者だと考えられます。

ただ、グローバルの流れとしては、

  • マーケットリスクを抑えるため(運営コストの抑制)
  • 顧客との利益相反関係を避けるため(投資家保護の向上)

多くのFX業者がB Book的なビジネスモデルからA Book的なビジネスモデルに移行しています。

ではなぜ未だに日本にはB Book業者が多いのでしょうか?

それは主に、日本の投資家たちの期待値によるところが大きいと思います。投資家が固定スプレッドや、インターバンク取引でも有り得ないような狭小スプレッドを当たり前のサービスだと考えている限り、B Book業者は減りません。残念ながら、現状、日本だけが世界の流れに後れを取っているわけです。

ただ、このブログの主題の一つでもある「グローバル外為行動規範」が、日本における特異な環境を変えるカギとなると私は考えています。

FX業界を取り巻く規制

さて、みなさんは外国為替証拠金取引(略:FX)というと、どういう印象を持っているでしょうか?

残念ながら、新聞には上のような見出しがしょっちゅう踊っているため、金融商品としてのFXの地位は低いままです。また、最近ではだいぶ減ってきましたが、海外の未登録業者にまつわるトラブルも後を絶ちません。

こんな悪評を消すため、と思ったかどうかは知りませんが、監督庁は過去10年にわたって様々な法規制を整えてきました。

出典:証券アナリストジャーナル 2016年4月

 

御覧の通り、結構な数の規制が比較的短期間に施行されました。

もちろん、これら規制のお蔭でお行儀の悪い業者が減り、個人投資家の資産が保護される結果になった訳ですが、次から次へと施行される規制の対応に、業者側は常にてんてこ舞いでした。システムの対応、プロセスの変更、ビジネスモデルの見直しなど、常に対応に追われていたのを私もよく覚えています。

 

主だった規制には以下のものがあります。

取引業者登録義務(2005年5月)

この時から個人向けにFXサービスを提供する業者は、監督庁に登録の義務が課せられました。具体的には第一種金融商品取引業をおこなう旨を登録する必要があります。海外業者は基本的には全て無登録業者です。これらについては、金融庁がリスト化し、HP上で定期的に情報を更新しています。

不招請勧誘禁止(2007年9月)

勧誘の要請をしていない見込み客への訪問、電話等での勧誘をする行為が禁止されました。もともとは商品先物業者の無理な勧誘を取り締まるため施行されたものですが、FXなどの店頭デリバティブに対しても同様の措置が取られました。これは、当時のFX業者の殆どが商品先物業者から派生していたことが理由と考えられます。

証拠金の信託会社等への金銭信託一本化(2010年2月)

顧客の預かり証拠金について2005年5月以降、自己の勘定(口座)と分けることが必須となりましたが、2010年2月以降は全ての預かり証拠金を信託銀行等に信託することが必要になりました。

レバレッジ規制(2010年8月、2011年8月)

射幸心を煽る過剰な投機行為を規制するため、レバレッジが先ず2010年8月に最大50倍まで、そして2011年8月には最大25倍まで下げられました。ただし、本規制の施行対象は個人投資家に限られるため、高レバレッジでの取引を望む一部の投資家は、法人を設立して規制対象外の法人口座にて取引し始めるという現象も発生しました。これら法人口座に関しては、2017年5月から別のレバレッジ規制が施行されています。

 

ここ数年に関していうと、新たな規制が導入されていません。その代わり監督庁が注力を入れているのは、いわゆる「フィデューシャリー・デューティー」で、金融庁は「顧客本位の業務運営に関する原則」を2017年3月30日に公表しています。

この「フィデューシャリー・デューティー」ですが、実はグローバル外為行動規範にも通じるものがありますので、また別の機会に掘り下げて検証したいと思います。

FXの仕組みの基本

さて、ここまで何回かにわたってグローバル外為行動規範について書いてきましたが、ここで本サイトのもう一つの主役である外国為替証拠金取引(略:FX)についても考えてみましょう。

そもそもFXとは何なのか?このブログを読んでいる方は皆さんご存知かとは思いますが、2016年6月号の日銀レビューには以下のように定義されていましたので紹介いたします。

FX取引とは、顧客が取引金額の一部を証拠金として予めFX会社に預託し、成立した取引の決済を任意の期日まで延期することができる外国通貨の売買取引(※金融商品取引法にて定義された通貨関連デリバティブ取引)である。

日本においてFXは、1998年の外国為替管理法改正の外国為替取引自由化をきっかけに登場し、その後20年ほどの期間で急激に一般投資家に浸透しました。現在では個人投資家による外国為替取引市場として世界最大級の規模にまで成長しています。また、現在日本にはFX取引市場が2つ存在します。

  • 取引所取引(東京金融取引所、商品名「くりっく365」)
  • 店頭(OTC)取引

ただ、取引高を比較してみると、全FX取引高の99%以上がOTC取引となっているので、本ブログでは特に断らない限り、OTC取引について述べるものとしますので、ご了承ください。

 

では、FX取引の仕組みについて考えてみましょう。

個人投資家の立場からすると、FX業者がどのような仕組みでサービスを提供しているかについて考えたことは殆ど無いかもしれません。ただ、これからは(特にグローバル外為行動規範の観点から)FX業者選びの重要なポイントになるかと思いますので、ここで簡単におさらいしておきましょう。

出典:日銀レビュー2016年6月

主な登場人物(組織)とその役割は以下の通りです。

  • 顧客
    • 投資家の皆さんです。基本的には個人投資家が殆どですが、顧客属性としては法人格を有している顧客も存在します。
  • FX会社
    • 日本でFXサービスを個人顧客向けに提供するには、第一種金融商品取引業者として金融庁に登録し、金融先物取引業協会の会員になることが求められています。ここでは、FX専業会社だけでなく、FXサービスを提供する証券会社や銀行も含みます。
  • カバー取引先
    • FX会社が顧客との取引により発生したポジションの調整として行う取引の相手先です(※)。国内外の金融機関(銀行)や、最近ではノンバンク系の企業(ヘッジファンドなど)もカバー取引先として名を連ねていることが多いです。
  • プライムブローカー
    • プライムブローカレッジサービスを提供している金融機関です。プライムブローカーの信用力を使い、FX会社に代わってカバー取引先との間で資金決済を行います。FX会社は、カバー取引先各社に証拠金を差し入れる必要がなく、決済も発生しません。その代わり、FX会社はプライムブローカーに証拠金を差し入れるほか、取引に応じて手数料を支払います。

 

上の図では顧客の売り注文と買い注文をFX会社の中で「マリー(※)取引」としてオフセットしていますが、実はすべてのFX会社がこの「マリー取引」をしているわけではありません。

この辺の違いについては、また別途書きたいと思います。

(※)ここで言う「マリー」という言葉は英語の「結婚」を意味する言葉から取られており、「マリー取引」とは売りと買いのポジションをくっつけて相殺/ネットすることを表しています。相殺して調整できなかった出っ張りのポジションの部分をカバー取引先に出します。