コード遵守に関する取り組み

前回、グローバル外為行動規範(略:コード、英文:FX Global Code)はあくまで「原則」であり、各種準拠法に取って代わるものではないということを書きました。

では、どのようにこの「原則」を全ての市場参加者に遵守してもらうことができるのでしょうか?

本コードを取りまとめてきたBISの外国為替作業部会(FXWG)は、コード公表と同時に「Foreign Exchange Working Group REPORT ON ADHERENCE TO THE GLOBAL CODE May 2017(グローバル外為行動規範の遵守に関する報告書、訳:東京外国為替市場委員会)」という文書も発表しており、そこには本コードが市場参加者に採用されるためのFXWGが考えた計画が記載されています。

報告書の序文には以下のように書かれていました。

コードは、自主的な性格のものであり、効果を発揮するためには外国為替市場の参加者の間で受け入れられ、採用され、遵守される必要がある。そのため、FXWGは、コードの広範な採用・遵守を促進し、そのためのインセンティブを与えることにより、コードをサポートする方法を策定すべく取り組んできた。

コードが自主的な性格という点、そしてFXWGが遵守促進のために積極的に関与するという点、この二つが大切なポイントと言えそうです。

 

まずは1点目、コードの自主性について考えてみましょう。

この点について、日銀と東京外国為替市場委員会は以下のようにまとめています。

  • コードは法律・規制ではないため、幅広い市場参加者による自主的な遵守が重要。
  • 基本的なアプローチ:「比例原則」「市場参加者が自己の活動をコードに適合させるためにとる方策は、各市場参加者の外為業務の規模や複雑さ、また外為市場への関与の性質を反映したものであるべき」。
  • 遵守に当たり、どのような方策をどのような方法でとるべきかは、各市場参加者の自主的な判断に委ねられる。
  • 規範の定め方についても、市場参加者の自主性を重視。詳細なルールではなく、ある程度解釈に幅のある「原則(principle)」を定めることで、市場参加者自身が外為業務の態様に応じて行為の適切性を自ら判断。→ 「書かれていないことは守らなくてよい」といった機械的対応に釘を刺す。

 

自主性というと甘い感じがするのですが、逆に外堀をしっかり埋められているような気がしますね・・・。言い逃れができない、的な。

 

では、2点目のFXWGの関与についてはどうでしょう?

報告書によると市場参加者のコード遵守のための重要な要素として次の3つの点を挙げており、それぞれの点について促進のための計画を記載しています。

  • コードの実務への組み込み(Embedding)
  • モニタリング(Monitoring)
  • 遵守の表明(Demonstrating)

 

ここでは簡単に3つ目の「遵守の表明」について簡単に触れたいと思います。

FXWGでは、市場参加者が本コードを遵守していくことを対外的に表明することが重要だと考えているそうです。とういのも、遵守意思を対外的に表明する市場参加者が増えることによって、本コードの認知度が上がり、さらに遵守表明をする市場参加者が増えていくことが期待されるからです。

そのためFXWGは、市場参加者が本コードを遵守していく意思を対外的に表明するための共通のフォーマットとして「遵守意思表明(Statement of Commitment)」を準備しました。

(出典:東京外国為替市場委員会によるコード和訳)

 

今後はこの遵守意思表明をしているかどうかが、FX業者を選ぶ一つの大きな指針になりそうですね。

コードと準拠法との関係

そもそもグローバル外為行動規範(略:コード、英文:FX Global Code)の法律的立ち位置はどうなっているのでしょうか?各国の関連準拠法に取って代わるものとして想定されているのでしょうか?

今回は本コードと準拠法(法律や規制)との関係について考えてみましょう。

 

実は「行動規範の策定」という取り組みは今回が初めてではありません。

今までは各国/地域において独自のコードが存在していました。

例えば、本邦においては1993年に東京外国為替市場委員会が初めて本格的な行動規範を作成して、その後は随時改訂版を公表してきました。2013年版が直近のバージョンになりますが、表紙の色から「オレンジブック」と呼称されていたようです。また、 2015年5月にオレンジブックを補完する形で「外国為替取引ガイドライン(ブルーブック)」が公表されました。

今回のグローバル外為行動規範は、これまで各国/市場に存在していた独自の行動規範にとって代わるものとして策定されました。これによって、今後は世界中の外為市場で同一の行動規範が適用されると同時に、各国において異なる行動規範が存在するという状態を解消することになります。

この点について、コードの序文には以下のように述べられています。

グローバル外為行動規範は、外国為替市場における適切な慣行に関する一連のグローバルな原則を示し、外国為替ホールセール市場の健全性と円滑な機能の促進に向けた共通のガイドラインを示すために策定された。

本コードが「グローバル」に適用されるべき「共通」のガイドラインであることが明記されています。

ただ、ここで注意していただきたいのが、本コードが「原則」であるという点です。つまり、あくまで原則ベースのガイドラインであって、法律や規則ではないのです。

これまで各国で策定されていた行動規範も同様、法律や規制ではなく、自主的なガイドラインでした。

コードの序文にはさらにこのように書かれています。

グローバル外為行動規範は、市場参加者に対し法律上、又は規制上の義務を課すものではない。また、規制に取って代わるものでもない。グローバルに適切な慣行やプロセスを明示することにより、各国のあらゆる法律、規則、及び規制を補完する役割を果たすことを企図している。

はっきりと法律的な「義務を課すものではない」、「規制にとって代わるものではない」と書かれていますね。

 

また、コード内の「グローバル外為行動規範と準拠法」というセクションには以下のように書かれています。

市場参加者は、自己及び事業を行っている法域の外国為替市場に対し適用される法律、規則、及び規制(準拠法)を理解し、これらを遵守しなければならない。市場参加者は、このような準拠法を遵守するために、社内ポリシーや手続きを規定する責任を引き続き負う。

本ガイダンスの内容は、準拠法を代替又は修正するものでは決してない。

つまり、本コードは各国の準拠法にとって代わるものではないので、市場参加者はまずそれぞれの国の法律にしっかり従う必要がありますよ、と。その上で、本コードに定めた「外国為替市場における適切な慣行に関する一連のグローバルな原則」をみんなで当てはめることにより、業界の信頼性を高めていきましょう、というわけです。

 

まとめ

  • グローバル外為行動規範はあくまで「原則」であり、準拠法(法律、規制)に取って代わるものではない。市場参加者は、各々が属する国や地域の準拠法を理解し遵守すべきである。
  • グローバル外為行動規範は、今まで各国/地域で独自に策定されていた行動規範に取って代わるものである
  • とはいえ、各国/地域には独特の取引慣行が存在するので、グローバル外為行動規範の趣旨を損ねない限りにおいて、各国/地域においてローカル特則を設けることが認められている

図に落とすとこんな感じになります↓

 

乱暴な言い方をすれば、本コードは法律ではないので、遵守しなくても何らペナルティがないわけです。もちろん今後はレピュテーショナル・リスクは存在するようになると思われますが。

では、どうやってこのペナルティの無い「原則」を全ての市場参加者に遵守してもらうことができるのでしょうか?

次のセクションでは、その取り組みについて考えます。

コードの適用対象者

では、グローバル外為行動規範(略:コード、英文:FX Global Code)の適用対象者は誰なのでしょうか?

いわゆるインターバンクに参加している金融機関(銀行)だけ?もしくは個人投資家も含まれるのでしょうか?

2017年5月25日に本コードが発表されると同時にリリースされた各種メディアには、「全ての外為ホールセール市場参加者に適用」という文字が踊っていましたが、これはどういう意味でしょうか?コードの序文には以下のように記載されていました。

外国為替市場には様々な参加者が存在し、それぞれ異なる方法で多様な商品を取引している。グローバル外為行動規範は、この多様性を念頭において作成されており、セルサイド及びバイサイドの組織、ノンバンク系流動性提供者、電子取引プラットフォームの運営者、仲介、執行、及び決済サービスを提供するその他の組織等、外国為替市場に関与する全ての市場参加者に適用されることが想定されている。市場の多様性を考慮すれば、全参加者に対して適用できる画一的なアプローチは存在し得ないが、グローバル外為行動規範は、責任ある市場参加者のための共通のガイドラインを定めることを目的としている。

ちなみに2016年に公表された第一フェーズも確認しましたが、一部翻訳に変更があったものの内容は基本的に同じでしたので、想定されている適用対象者は、コードの策定期間中に変更がなかったことが分かります。

 

ポイントは「全ての市場参加者」が対象であるという点です。コードではさらに具体的な参加者を幾つか例示しており、その中には以下の(主にFX業界に関係する)組織も含まれていました。

  • 金融機関
  • ノンバンク系流動性提供業者
  • ブローカー(個人向け外国為替証拠金業者を含む)
  • 電子取引プラットフォーム

逆に以下の組織に関しては、いわゆる「市場参加者」に該当しないので、本コードの適用外とのことです。

  • レート配信プラットフォーム(※)
  • 個人顧客全般

(※)取引機能の無い、レート配信のみ可能なプラットフォームを指していると思われます。

 

これら情報を総合すると、本コードがFX業界も念頭に置いて書かれていることが明らかです。また、本コードがFX業界で今まで当局の直接的規制対象外であったカバー先としての金融機関およびノンバンク系流動性提供業者や、電子取引プラットフォーム(を提供しているIT会社)にまで対象者を広げていることが非常に興味深いと言えます。もちろん、FX業者が本コードの適用対象者であることは言うまでもありません。

今はまだ業界内でもほとんど情報が無いですが、FX業界にもグローバル外為行動規範の波が押し寄せてくることは必至です。

将来的には、個人投資家がFX業者を選ぶとき、その業者自身がコードへの遵守を表明しているかどうかが大切なポイントになりますが、さらにはその後ろにいるカバー先およびプラットフォーム提供会社が遵守表明しているかどうかも大切な選定基準になることでしょう。

今後の動きに目が離せません!

グローバル外為行動規範の概要

グローバル外為行動規範(略:コード、英文:FX Global Code)の最終版原文(英語)は、グローバル外為市場委員会のウェブサイトから入手できます。また、日本語訳は東京外国為替市場委員会のウェブサイトから入手可能です。

本コードは、全6分野、計55原則で構成されています。

6分野の概要は以下の通り:

  1. 倫理(原則#1~7)
    • 市場参加者は、外国市場の公正性や健全性を促進すべく、高い倫理感のもとプロフェッショナルな態度で行動することが期待されている。
  2.  ガバナンス(原則#8~18)
    • 市場参加者は、自己の外為市場活動について、責任を明確化し包括的な監督を行い、かつ外国為替市場への責任ある関与を促進するため、健全で効果的なガバナンス体制を有することが期待されている。
  3.  取引執行(原則#19~23)
    • 市場参加者は、頑健、公正で、開かれた、流動性が高く、適度に透明な外国為替市場を実現すべく、取引の交渉及び執行において、注意を払うことが期待されている。
  4.  情報共有(原則#24~33)
    • 市場参加者は、分かりやすく正確なコミュニケーションを行うことや機密情報を守ることにより、頑健、公正で、開かれた、流動性が高く、適度に透明な外国為替市場の実現を後押しするような効果的なコミュニケーションを促進することが期待されている。
  5. リスク管理とコンプライアンス(原則#34~41)
    • 市場参加者は、外国為替市場への関与において発生するリスクについて効果的に特定し、管理し、報告するための頑健な管理及びコンプライアンス環境を促進し維持することが期待されている。
  6.  取引確認と決済(原則#42~55)
    • 市場参加者は、外国為替市場において予測可能で、円滑かつタイムリーな決済を促進すべく、頑健、効率的、透明で、リスクを軽減できるような取引執行後のプロセスを構築することが期待されている。

 

また、「グローバル外為行動規範について(日本銀行・東京外国為替市場委員会)」によると、本コードには3つの特徴があります:

  1. グローバルに単一の規範
    • いままで国ごとに存在していた行動規範にとって代わり、グローバルに単一の行動規範として適用される。
  2. 市場ごとに柔軟な対応を許容
    • 各国市場には様々な要因から独自の慣行が存在しているが、本規範の趣旨を損ねない限りにおいて、各国でローカル特則(※)を制定することを容認する。
  3. 利便性を高める工夫
    • これまで行動規範が十分に利用されてこなかったとの問題意識から読みやすさ、表現方法、使い勝手の良さを工夫。さらに具体的な例示集を設けている。

(※)東京市場では、公示(公表)相場やBCP等についてローカル特則を制定。公示(公表)相場とは、本邦金融機関がそれぞれ自行の対顧取引に適用する為替レートであり、各金融機関が午前9時55分頃に公表し、原則として当日中、同一のレートが適用される。

 

本コードの公表は2段階に分けて実施されました。

第一フェーズ(2016年5月25日):1. 倫理、3. 取引執行、4. 情報共有、6. 取引確認と決済

第二フェーズ(2017年5月25日):2. ガバナンス、5. リスク管理とコンプライアンス

コード策定の背景

グローバル外為行動規範(略:コード、英文:FX Global Code)は、2013年にロンドンなど海外市場で発覚した外為取引における不正行為の再発防止を図るため、金融安定化理事会(FSB)の提言などを踏まえ、16カ国・地域の中央銀行で構成するBISの外国為替作業部会(FXWG)が約2年にわたって取りまとめてきた規範です。

出典:グローバル外為行動規範について(日本銀行・東京外国為替市場委員会)

日本からは日銀がFXWGの一員として、東京外国為替市場委員会が主要8か国・地域の外国為替市場委員会(FXC)の一部として、また民間専門家グループ(MPG)のメンバーとしては、東京外国為替市場委員会の議長と副議長の2名が参加したとのことです。

グローバル外為行動規範の最終版は、2017年5月25日にグローバル外為市場委員会(Global Foreign Exchange Committee: GFXC)のウェブサイトで公表されました。GFXCは、2017年5月24日に中央銀行と民間セクターがともに参加するフォーラムとして(主に本コードの遵守促進を目的に)設立された組織です。

 

まとめ

本コード策定に関わってきた組織一覧:

  • BISの外国為替作業部会(FXWG)←日本からは日銀が参加
  • 外国為替市場委員会(FXC)←日本からは東京外国為替市場委員会が参加
  • 民間専門家グループ(MPG)←日本からは東京外国為替市場委員会の議長と副議長が参加

本コードの遵守促進を目的として(最終版公表前日に)設立された新たな組織:

  • グローバル外為市場委員会(Global Foreign Exchange Committee: GFXC)