金先業協会アンケート結果④

平成28年8月31日に公表された一般社団法人金融先物取引業協会(金先業協会)と東京外国為替市場委員会が実施したアンケート実態調査の集計結果の検証、第4回目です。

第一回目に、本アンケートでFX業者のビジネスモデルを以下の4つの要素に分け、検証していると書きました。

  1. ホワイトラベル
  2. 価格の生成に利用するカバー先取引先数
  3. マリー
  4. 顧客約定とカバー取引のタイミング

ここまでで1~3の要素について書いてきましたが、今回は4つ目の要素「顧客約定とカバー取引のタイミング」について考えてみたいと思います。

そもそも「顧客約定とカバー取引のタイミング」とはどういう意味なのでしょうか?アンケートでは、以下の3つの選択肢から選ぶようになっています。

  • 『前』
    • カバー取引が先に成立した時に限り顧客との約定を行う場合
  • 『後』
    • 顧客取引が成立した後にカバー取引を行う場合
  • 『裁量』
    • カバー取引を行うタイミングを顧客との取引成立の前後どちらでも行うことができる場合

 

これら3つの選択肢にはどのような意味があるのでしょうか?例えで考えてみましょう。

 

『前』の場合:

  1. 顧客からUSDJPY買い$100万の成行注文を受けたとすると、
  2. 業者は先ずカバー先に同額の注文を出し、約定を確認する
  3. その後、業者はカバー先との約定内容を顧客に伝えることにより、取引が成立する

特徴:

  • 顧客との取引とカバー先との取引の間に時間さが発生するので、スリッページ(顧客が想定していた約定値段と実際の約定値段のギャップ)が発生しやすい
  • 約定がカバー先が提示する値段に左右されるため、顧客に提示されるスプレッドが「変動」である場合が多い
  • 業者がポジションを持たないため、利益相反が発生しないA Book業者である場合が多い

 

『後』の場合:

  1. 顧客からUSDJPY買い$100万の成行注文を受けたとすると、
  2. 業者はまず顧客との取引を成立させ(その旨通知し)、
  3. その後、カバー先との取引を実施してポジションを解消させる

特徴:

  • カバー先との取引成立を待たず(もしくはそもそもカバー取引をせず)に顧客との取引を成立させるため、スリッページ(顧客が想定していた約定値段と実際の約定値段のギャップ)が発生しにくい
  • 約定がカバー先が提示する値段に左右されないため、顧客に提示されるスプレッドが「固定」である場合が多い

 

なお『裁量』とは、カバー取引を行うタイミングを顧客との取引成立の前後どちらでも行うことができる場合を示している、とのことです。

 

次回、「顧客約定とカバー取引のタイミング」という視点から、日本におけるビジネスモデルの分布状況について検証します。

 

 

金先業協会アンケート結果③

平成28年8月31日に公表された一般社団法人金融先物取引業協会(金先業協会)と東京外国為替市場委員会が実施したアンケート実態調査の集計結果の検証、第3回目です。

前回、アンケート結果の一つの結論として、取引高上位業者ほど、

  • 内製システムもしくはASPを利用しており
  • 且つマリーしている

つまりはB Book業者であると書きました。では、どれくらいの規模でマリーしているのでしょうか?

この点を考えるにあたって、そもそも日本におけるFXの取引高はどれくらいあるのでしょうか?

出典:金融先物取引業協会「店頭外国為替証拠金取引の実態調査について」

御覧の通り、2012年4月に比べると2016年4月の取引高は3倍以上になっています。グラフにすると、取引高の伸びは明らかです。(※上の表は1か月分の値ですが、下のグラフは四半期の値です)

出典:日銀レビュー2016年6月

では、この取引高の内、どれだけ割合がマリーされているのでしょうか?アンケート結果のレポートにはFX取引額に対するカバー取引額の割合も記載されていました。

御覧の通り、上位3位までのカバー取引額割合が突出して低く(2016年4月:16.1%)なっています。つまり、限りなくB Bookに近いビジネスモデルだということです。逆に41位以下は90.1%ということで、取引高が少ない業者はA Bookに近いビジネスモデルになっています。

実際、日本における取引高上位3社というのは世界の上位3社でもあります。その上位3社がB Book業者だという事実は、グローバルでは結構ショッキングなニュースでもあります。なぜなら、近年において日本以外の国においてB Book業者の数は確実に減っているからです。なぜなら、先日も書きましたが、多くのB Book業者が、以下の理由のためビジネスモデルをB BookからA Bookに変更しているからです。

  • マーケットリスクを抑えるため(運営コストの抑制)
  • 顧客との利益相反関係を避けるため(投資家保護の向上)

 

この辺の日本における状況も今後、グローバル外為行動規範の導入によって変わってくるかもしれません。

次回は、アンケートで明らかになったFX業者の4つ目のビジネスモデル要素について検証したいと思います。

 

金先業協会アンケート結果②

前回に引き続き、平成28年8月31日に公表された一般社団法人金融先物取引業協会(金先業協会)と東京外国為替市場委員会が実施したアンケート実態調査の集計結果を検証したいと思います。

アンケート結果を3つのビジネスモデル要素で分けると、以下のようになりました。

興味深い点として、アンケート結果では調査対象会社における2016年4月度の取引高を多い順に順位付けした後、3つのグループに分けてその結果を公表しています。

  • 第一グループ(第1位~17位)
  • 第二グループ(第18位~34位)
  • 第三グループ(第35位~51位)

 

それでは、それぞれのビジネスモデル要素における順位グループ別の採用数の分布はどうなっていたでしょうか?

取引システム

  • 第一グループ
    • 内製システム/ASP:76.0%
    • ホワイトラベル:24.0%
  • 第二グループ
    • 内製システム/ASP:61.9%
    • ホワイトラベル:38.1%
  • 第三グループ
    • 内製システム/ASP:42.1%
    • ホワイトラベル:57.9%

【コメント】取引高が多いFX業者ほど、取引システムの内製化もしくはASPの利用が目立つ。逆に取引高が少ない業者はホワイトラベルのシステムを利用している割合が高い。

カバー取引先数

  • 第一グループ
    • 単数:28.0%
    • 複数:72.0%
  • 第二グループ
    • 単数:57.1%
    • 複数:42.9%
  • 第三グループ
    • 単数:52.6%
    • 複数:47.4%

【コメント】第二と第三グループでは、単数が複数を少し上回るくらいで、これといって大きな分布パターンは無いものの、第一グループでは複数の採用数が突出している。

マリー

  • 第一グループ
    • あり:64.0%
    • なし:36.0%
  • 第二グループ
    • あり:38.1%
    • なし:61.9%
  • 第三グループ
    • あり:26.3%
    • なし:73.7%

【コメント】取引高が多いFX業者ほどマリーをしていて、逆に取引高が少ない業者はマリーをしていない割合が高い。

 

ここまでアンケート結果を見てきましたが、一つの結論を見出すことができたかと思います。それは、取引高上位業者ほど、

  • 内製システムもしくはASPを利用しており
  • 且つマリーしている

という点です。つまりはB Book業者なわけです。

次回、この点についてもう少し考えてみたいと思います。